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しゅじゅつ。

 これは腫瘍ですね――と医師は言った。

 重い言葉だった。それはさながら無実の男に死刑宣告をする裁判官の言葉。
 全身から血の気が引いていくのを感じる。
 確かに、最近体調を崩すことが多かった。
 疲れも取れにくくなり、頭痛の頻度も上がっていたようにも思う。
 だからこの結果はある意味では当然のものなのかも知れない。
 だがしかし、僕にとってはまさに青天の霹靂のことだった。
 自分だけは大丈夫だと、そんな誰しもが密かに抱える根拠のない自信に浸っていたせいかもしれない。
 そんな蒙昧な幻想が、当たり前のように崩れ去った。
 今まで当然そうであるべきだと信じていたものが、一瞬にして雲散霧消した。
 ショックだった。
 のどがカラカラに渇いて、上手く言葉を繋げない。
 そんな僕の心情を察してか、医師は重々しく一度頷いてから、僕の身体に巣喰った腫瘍について語り始めた――。

 これは、僕ことビート紺野の身に起こった真実である。
 そして、誰しもの身体に突如として現れる可能性を秘めた、厄災でもある。
 断じていつものおちゃらけた悪趣味な冗談ではない。
 いつ何時、僕と同じ不幸に見舞われる人が現れてもいいように、こうして記録を残そうと考えた次第だ。
 仮に読んだとしても得られるものはないかもしれない。
 しかし、もしかしたら――世界のどこかの誰かの役に立つかもしれない。
 百人にとっては無価値でも、一人にとって価値があれば、それはやはり意味があるのだと、僕は思う。
 ゆえに僕は、この記録を書き残そう。
 いつか、誰かの役に立つと信じて――。

 さて、つまらない前説はこれくらいにしてそろそろ本題に入ろう。
 覚悟のある方だけ、この続きを読み進めていただきたい。

 あわよくば貴方が今宵、心地よい眠りに就けますように――。





「これはアテロームもしくは粉瘤という良性の腫瘍です。ほぼ無害です」
「…………」
 余命宣告をされるのかと思いきや拍子抜けするほどあっさりだった。責任者はどこか。

 さて――そもそも事の起こりは先週の頭くらいまでさかのぼる。
 椅子に座っていたら妙な違和感を覚えたので、なんだろう、と思っておしりをさすってみるとにきびのような腫れがあった。
 おしりににきびができたことは初めてだったが、そのときはまあそんなこともあるか、という程度にしか考えなかった。
 座るときわずかに痛みを感じるけれども、きっと一過性のものだろうしその間は固い場所に座らずクッションなどを利用していけば良いだろう――ビート紺野というのは、そんな浅はかな人間だった。
 しかし、一週間経っても腫れは一向に収まらず、しかもなんだか皮膚の内側にしこりのような硬い感触があった。
 おそらくその硬い物体が皮膚と筋肉を圧迫し、座ったときに妙な痛みを発するのだろう。
 皮膚の下のしこりと聞いて真っ先に思いつくのは、腫瘍だ。放置して良いものかどうか判断に迷う。
 場所が場所だけに少しだけ考えたが、やはり腫瘍には早期発見が肝要だ。恥ずかしがっている場合ではない。
 おそらくは何事もなくただのにきび的なあれだろうけれども、万が一のことを考え、逆に安心を得るパティーンで、病院へ行く決意をした。
 ならば早いに越したことはないと、火曜日に仕事を休んで病院へ行ってきた。
 そして――冒頭に戻るのである。
 ちなみに、いつぞやの内視鏡同様、今回のドクタも若くて巨乳の美人女医という設定で描写していく。
 本当は稲川淳二氏似の、初見では、この人にケツ見せたら逆に尻子玉でも抜かれるんじゃねえか(失礼)、とさえ思うほどの老練な初老の男性医だったわけだが、せっかくなのでリアリティよりもエンタテインメント性を重視して描写していく。
 そしてこの時点でもう察しの良い方はわかったと思うけれども、この駄文は決して真面目な闘病記録的なものではない。
 不謹慎なくらい不真面目な、ただのエッセイである。
 なので、そういったものを期待して読み進められた方はブラウザを消したほうが良い。
 ただ、アテロームに関する顛末はきちんと記すつもりなので、もしもアテロームの可能性がある方には、あるいは多少有用な情報も記されているかもしれない(ない可能性が高いが)。
 ついでに「紺野の苦しむ姿が見てえ」という方の期待にはおそらく応えられるだろう。どうにも理解しがたいが、ここにはそういう不思議な性癖の持ち主が存外多いらしい。

 閑話休題。そろそろ本題へ戻ろう。

 ――待合室から診察室へと通された僕は、ドクタと対面した。
 ドクタを一目見た瞬間、僕はその美しさに驚いた(稲川淳二氏に似ていて驚いただけかもしれない)。
 しかし、すぐに気を取り直すと、僕はよろしくお願いします、と頭を下げて用意された椅子に腰を下ろした。
 ドクタは、見ていた問診票から顔を上げると椅子ごとこちらに向き直る。
 胸元の大きく開いた開襟シャツから覗く、その豊満な胸が惜しげもなく僕の目の前に晒される(幻覚)。
 それからドクタは、僕の顔を見ながら満面の笑みを浮かべて言った。

「それでは、ズボンとパンツを脱いでそこのベッドに寝そべってください」
「…………」

 男なら一度くらいは言われてみたい台詞だったが、こう恥じらいもなく言われてしまうと、閉口してしまう。
 まあ、医療行為なのだから当たり前なのだけれども。
 おとなしく僕も言われるままにズボンを脱いでから寝台に俯せになりパンツを下げる。
 少しだけ気恥ずかしさを覚える僕の気を紛らすためか、ドクタは殊更明るい声で言う。

「綺麗なケツですね!」
「……そういうお為ごかしはいりません」
「いやいや、本心です! 紺野さん、顔が陰険だからケツに人面疽でも浮かんでるかと思いましたよ!」
「……何言っても許されると思うな?」
「軽いジョークじゃないですかあ。冗談の通じないファッキンナッツ、逝ね」
「そこまで言う必要性がどこにあるんです!?」
「ささ、それでは診察を開始しますよー」

 まるで何事もなかったかのように、僕の臀部をまさぐり始める。

「ははあ、なるほど、これですね。痛みますか?」
「……いえ、痛みはそれほど。ただ座るときに違和感がありますね」
「いつ頃から気になり出しました?」
「一週間くらい前ですかね。実は十五年くらい前にも同じ場所に同じようなしこりができたのですが、そのときはすぐ気にならなくなったのですよね。今思い出しました」
「ははあ、なるほどなるほど」

 それからドクタは、何度か抓るようにしこりを調べてから、じゃあもう良いのでズボン穿いてください、と言った。
 おとなしく指示に従う。
 そうして、ドクタは僕にしこりの正体がアテロームという良性の腫瘍であることを告げた。

「要するにですね、皮膚の下に老廃物が溜まって袋状になってしまったものですね。いわゆる良性の腫瘍です。腫瘍なので自然治癒することはありません。摘出して調べてみないと確かなことは言えませんが、ほぼ無害です」
「――あの、最近僕、疲れが取れにくかったりと体力の衰えを感じるのですが、それもこれが原因なのですか?」
「それはただの老化でしょう」
「…………」

 ばっさりだった。斬鉄剣もかくやというほどの切れ味だった。

「人体のどこにでもできる可能性はありますが、おしりが好発部位の一つです。基本的には無害なので放置しても良いのですが、ごく稀に悪性化することもあります」
「悪性化したらどうなるのです?」
「最悪、死にます」
「直球!」
「まあ、本当にごく稀です。しかし、あったところで得をすることもないので今日取っちゃいましょう」
「そんなちょっとコンビニ行くみたいなノリで気軽に手術を勧められても!」
「これ同意書です。サインください」
「だからするとは言ってねえだろ!」
「あれ、しないのですか?」
「……いや、これ以上酷くなるのも嫌なので取ってください。しかし、外科手術ですよね? そんな気軽にやって大丈夫なんですか?」
「難しい手術ではありません。局所麻酔をしてからメスで切開して腫瘍を取り出します。長くても四十分くらいですね」
「切開ってどれくらい切るんですか?」
「んー、この大きさなら二センチ以下ですね。術後も傷口はほとんど目立たないですよ。何せ私は腕が良いですからね!」
「そういうのはいらない……。まあ、良いです。わかりました、ではよろしくお願いします」

 同意書にサインをしてから、エコーを撮ったりしつつ、処置室へ移動した。

「それではもう一度、ケツ出してそのベッドにうつぶせになってください」
「……他にもっと言い方があると思うんですけどね」

 不平を漏らしながら、僕は指示に従う。手術助手氏が僕の上に布のようなものをいろいろと置いていく。
 ついでに、あごの下にまくらを置いてもらう。ありがたい。

「――それではまずは、麻酔をしますね」
「……よろしくお願いします」
「人間の皮膚は四種類の刺激を感じ取ることができると言われています。圧感、温感、冷感、痛み、そして苦み」
「五つめ、それ絶対ウソですよね!」
「そして苦み」
「二度も言った!」
「これらの刺激のうち、麻酔は痛みの感覚だけを麻痺させます」
「今の説明だと苦みは残るな!」
「それでは注射しますねー。あ、それではおしりにふっといお注射しますねー」
「わざわざ言い直す意味がわからん!」
「ちょっとちくっとしますよー」
「……ぐっ!?」

 思わずうめき声がこぼれた。予想以上に痛かった。ちくっと、というか、ぶすっ、という感じだ。

「痛いですかー?」
「……痛いです」
「そうですかー。でもまだ五ヶ所は打ちますよー。痛いのは最初だけですからー」
「らめえ! もっと優しく!」
「天井のシミを数えているうちに終わりますよー」
「うつぶせやで!」

 抵抗もむなしく、ぶすぶすとおしりに針を突き立てられていく。
 涙目になりながらも奥歯を噛みしめつつ痛みに耐える。
 数分後、ようやく感覚がなくなってきた。

「どうです? 麻酔効いてきました?」
「……よくわかりません」
「そうですか。ではまあ、適当に始めますね」
「え、ちょっと待って。麻酔の確認とかしないの!?」
「そこそこ効いてるはずなのでいいでしょう。痛かったら追加します」
「すげえ適当だな! ホント大丈夫か!?」
「ちなみに、紺野さん。ペースメーカとか身体に金属入れてないですよね?」
「いや、入れてませんけど……?」
「ピアスとか他に金属類も、身に着けていないですよね?」
「ええ、まあ」
「そうですか、それはよかった。実はこれから電気メス使うんですけど、金属類身体に入ってると拙いんですよねー」
「そういう大事なことは先に言えや!」
「じゃ、問題ないなら始めちゃいますねー。おとなしくしていてくださいねー」
「丁寧にお願いしますね!」

 そんなこんな、なんとも不安いっぱいで始められた手術だったが、意外にも麻酔はよく効いていたようで切開そのものはまるで痛くなかった。
 本格的な外科手術というものが初めてだったので(親知らずを抜いたとき以来だ)、とても緊張したが案外たいしたことないものである。
 案ずるより産むが易しというが、なるほど昔の人は良いことをいうものだ、と感心していたところで、突如として激痛が走った。
 思わずうめき声が漏れる。これにはさすがのドクタも手を止めた。

「ど、どうしました? 痛みますか?」
「……なんだかわかりませんが異常に痛いです」
「今、患部の摘出をしているのですが……とりあえず、麻酔追加しましょう」

 再び尻に針を突き立てられる。それもまた痛い。
 あごの下のまくらにしがみついてどうしようもない痛みに耐える。
 しばらくして、少しだけ楽になったのでまた手術が再開された。
 だが、やはり痛い。耐えられないほどの痛みではないが、痛いものは痛いのである。
 しかし、そうはいっても中断ばかりしていたらいつまで経っても手術が終わらない。それはつまり、この苦痛がただ無為に長引くことを意味する。
 それよりは、今少しの間だけ痛いのを堪えた方がましだと判断して、それ以降はひたすらに耐えた。
 意識を紛らわせるために、頭の中で『ま~ぶるMake up a-ha-ha!』をリフレインさせておく。

「……あの紺野さん。気持ち悪いんで、術中に喘ぐの止めてもらっていいですか?」
「あれ!? 声に出てました!? それはすみません! でもこれ、喘いでるんじゃなくて笑ってるんです!」
「いずれにせよきもいです」
「ぐうの音も出ない!」
「そうだ、気を紛らすために、面白い小話でも一つしてあげましょう」
「……まあ、痛みが紛れるのであればなんでもいいです」
「――あれは夏なのに妙に寒い夜のことでした。家路の途中、ふと背後から生暖かい風が吹いてきて嫌だな嫌だなと思っていると――」
「稲川淳二設定は今は消えてるはずなのに!」
「振り返ってみても誰もいない。気のせいだと思って前に向き直ったら――わあ!」
「ぎゃー!」
「どうです、気が紛れました?」
「心臓が止まるかと思ったわ!」
「それは生きている証拠です。ではオペに戻りますね」
「僕ただの脅かされ損じゃねえか!」

 その後、二十分くらい苦痛に耐え、なんとか手術は終了した。
 気がついたら、脂汗と涙と唾液でまくらはびしょ濡れになっていた。鼻水が垂れなかったのは不幸中の幸いだ。
 ドクタから受け取ったタオルで余分な体液をぬぐい取ると少しだけ気分が楽になった。
 ただ、疼痛を発する患部だけはどうしようもない。
 新たな苦痛に耐えながら、ドクタの説明を聞く。

「手術は無事完了しました。これが、摘出した腫瘍です」
「……おおう、マグロの眼球の裏側みたいですね」
「その例えはどうかと思いますけど……確かに予想より大きかったですね。直径三センチ、というところですか。この中に、脂だったり老廃物が溜まっています。見ます?」
「……いえ、今日は遠慮しておきます」
「そうですか。とりあえず、これは生検に回しておきますね」
「……よろしくお願いします」
「患部は内側と外側両方縫合してあります。抜糸の必要がない糸を使っていますが、ドレーンのガーゼを入れてあるので明日か明後日、必ずもう一度来てください。放置していると割と本気で死にます」
「……意地でも来るので覚悟しておいてください」
「一応抗生剤と痛み止めを処方しておきます。抗生剤のほうは、三日分しっかりと飲みきってください」
「……本業ゆえ、服薬コンプライアンスはばっちりです」
「あと、ドレーンを抜くまでお風呂は我慢してください。そのときの状態を見てまた判断します」
「……わかりました」
「紺野さん、元気ないけど大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃねえよ! なまら痛かったよ!」
「そうですか。ちなみに、大層痛そうでしたが、出産はその百倍くらい痛いものと考えてください」
「女性ってすげえ!」

 それから丁寧に礼を述べて病院を後にした。

 そんなこんなで、現在は術後三日目。ドレーンも抜き抗生剤も飲み終わりもうほぼやることがない。
 完治にはまだ少し時間が掛かりそうだけど、痛みはほとんどないし日常生活にも支障はない(ただし座るときどうしても片尻をかばって変な姿勢になるため肩がこっている)。
 痛みは、抗生剤と痛み止めのおかげもあってか、翌日にはかなり楽になっていた。
 ちなみに、ドレーンを抜くときちょっとだけ痛かった。でもまあ、手術の痛みに比べればまるで大したことはない。
 のど元過ぎればなんとやら、なのかもしれないけれども、思ったほどつらいものでもなかった気がする。
 人生で一度くらいは経験してもいいかもしれない。
 もしもこの記事を読んでいる方の中で、手術が怖くて病院へ行くことを遠慮している方がいらっしゃれば、とりあえず病院へ行くだけ行ってみましょう、と僕は勧めるだろう。
 安心をもらう、という意味でも医師の言葉というものはなかなかどうしてありがたいものだ。
 それが危険な代物だったら尚更である。
 手術はしなくても構わない場合もあるのだから、とりあえず医師の判断を仰ぐというのはそう間違った選択肢ではないはずだ。
 一人でネットを眺めながら悩むよりかは、多少、建設的だろう。
 案ずるより産むが易し、というアレである。

 少しでもこの記事が、あなたの役に立てば幸いである。


 ――ただまあ、僕はもう二度とごめんなのだけど。
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